メンヘラの代名詞とも名高い『リストカット』
痛い思いをして傷跡を残す行為と理由を、あなたは理解できますか?
私もリストカットのような自傷行為をしたことがなく、理解もできませんでした。
ということで、実際にリストカットをしたことがある人から色々と話を聞いてきました。
この記事を読めば、『リストカットは悪いことじゃない』ということが分かっていただけると思います。
よければ覗いてみてください
目次
リストカットの概要
まず本題に入る前に、リストカットがどういったものかを再確認したいと思います。
リストカットとは

リストカットは刃物で自分の身体に傷をつける自傷行為の一種です。
リストカットと言えば手首に傷をつける行為だと思われがちですが、傷つける箇所が脚や胴体であってもリストカットです。腕に傷をつける行為を『アームカット』、脚の場合は『レッグカット』と呼んで区別することもあります。
リストカット症候群
継続的にリストカットをする状態を『リストカット症候群』と言います。
また、リストカット症候群になった人は「リスカー」、「リストカッター」と一般的に呼ばれています。
このリストカット症候群に陥る人の特徴として、
・10~20代の若年層が最も多い
・女性が約8割近くを占める
といったものがあり、若い女性が多いことから、『少女の病気』とも呼ばれています。
リストカット自体は病気ではない
自傷行為は人間の防衛行為の一種であり、リストカット自体は病気の症状ではありません。
しかし、リストカットに依存して止められない状態に陥いれば、依存症の一種だと捉えることもあります。
リストカット体験者の声

今回は私の知り合いのリストカット経験者(27歳女性)に話を聞かせていただきました。
実名を出す訳にもいかないので、ここでは「Tさん(仮称)」とさせていただきます。
「既に乗り越えた話だから気にしないで」というお言葉も頂いておりますので、可能な範囲で突っ込んだ話をしました。
Tさん(27歳女性)
・社会人
・2年間リストカットの習慣があった(厳密には初めてリストカットしてから3年)
・2年前にリストカットを止め、その後は一度もしていない
リストカットのきっかけ

最初の一回はなんとなくでやってしまった
失恋とか就活失敗とかが重なっていたけど、「死にたい」とまでは思っていなかった
(Tさん)
初めのきっかけはそれほど重い理由ではなかったようです。
ただ、当時22歳のTさんは将来への漠然とした不安や日々のストレスを抱えており、それを発散したくて魔が差してしまったとのこと。
その時は一回きりで済ませ、しばらくはリストカットをすることはなかったそうです。
リストカット衝動は再発する
彼氏と喧嘩をしてしまって、それをきっかけに彼氏との仲が不安になってしまって
仲直りはしたけど、不安なままで
その次の日にあてつけみたいにリストカットして、写真を彼氏に送った
それからリストカットをする癖が付いてしまった
(Tさん)
彼氏との関係に不安を覚えて、またリストカットをする習慣になってしまったとのこと。
リストカットの習慣が無くなっても、また衝動的にしてしまう人は少なくありません。
Tさんも「気分がすっと落ち着く感覚」を忘れられなかったため、再度やってしまったとのこと。
リストカットをする理由

彼氏がいた時は見せつけて心配してもらうためって理由もあったけど、彼氏がいない時でもすることはあった
切った時は少し気分が落ち着くし、「もしこのまま死ねたらな」って考えることもあった
(Tさん)
上気の発言のように、Tさんがリストカットに依存した理由は複数あったようです。
ストレス発散
一番多いと言われているリストカットの原因です。
言語化できず他人や物にぶつけることもできない鬱屈したストレスが、自傷行為という形で発露することは少なくありません。
事実、研究によってリストカットの直後は脳内のオピオイドが急激に高まることが確認されており、リストカットによって感情的苦痛が和らぐことが示唆されています。
※オピオイド:モルヒネに類似した作用を示す物質の総称
淡い自殺願望
「自殺したいけれど踏み切れない」といった淡い自殺願望から行為に及ぶ人は一定数います。
しかし、リストカットのほとんどは傷が浅く致命傷にはなりえません。
リストカットの手軽さと苦痛の少なさから、「リストカットで死ねたらいいな」という思いを持つことは珍しくないようです。
承認欲求・愛されているかの確認
「恋人に心配されたい」、「リストカットをすれば相手は自分だけを見てくれる」といった理由でリストカットに及ぶ事例です。
また、恋人相手ではなくても承認欲求を満たす目的でリストカットを行うこともあります。
実は、承認欲求を理由にした自傷行為はエビデンスが存在せず、
「ほとんどの人は自傷行為を隠して一人で抱え込む」とも言われています。
しかし、実際にTさんが彼氏相手に見せていたことを考えると、一定数はこういった理由でリストカットに及ぶ人も居るのが分かります。
自分を大切に思わないのか

自分なんてどうなってもいいと思ってた
私は価値がないし、誰かに必要とされてるとは思わなかったから
でも、誰かに必要とされていることを実感したくてリストカットしていた
(Tさん)
自傷癖のある人には『自己肯定感が低い』という特徴があります。
悪いことは全て自分の責任だと考え、自分への罰だと言い聞かせてリストカットを行います。
自傷行為と自虐はセットです。
自分を傷つけることで更に自分が嫌いになり、また自傷行為に及んでしまうという負のスパイラルに陥いりがちです。
Tさんの場合はそこに承認欲求も加わるため、己を嫌う自分と愛されたい自分が同居するという自己矛盾にも苦しんでいました。
なぜ傷跡の目立つ手首を切るのか

特に考えたことはなかった
手首以外は考えたことがなかった
ただ血が沢山出るのは手首だから、手首を切っていた
(Tさん)
Tさんはリストカット=手首を切る という固定観念があったため、あまり気にしたことがなかったようです。
なぜ傷のバレやすい手首を切るのか?
そこには合理的な理由があります。
血が出やすいから
手首は皮膚が薄く血管までの距離が浅いため、簡単に多くの血を流せます。
リストカットした実感を得るためには、それなりの出血量が必要です。
だからこそ、簡単に出血しやすい手首を切るのでしょう。
適度な痛みを得られる
アームカット(腕)やレッグカット(脚)は傷が大きく深くなりがちなので、それに伴う痛みも強くなります。
しかし、手首であれば傷を浅く小さく済ませられるため、比較的痛くありません。
痛みよりも出血に重きを置く人は、手首で済ませる傾向があります。
逆に痛みを求める人は、痛みが強いレッグカットなどに移行していきます。
バレない自傷行為をする人も
手首のリストカットは他人にバレやすいため、跡が残らない自傷行為(首絞め、腕を思いきり握る…etc)や見えない箇所のリストカット(腕、脚…etc)に及ぶ人も少なくありません。
そのため、「手首に傷がなければ自傷行為をしていない」と安易な判断はできません。
リストカットは悪ではない
リストカット自体をダメなことだと思わないけど、もっと他に良い方法があったと思う
(Tさん)
先述の通り、リストカットの一番大きな理由は、うまく処理できないストレスの発散です。
自傷行為は”悪”ではありません。
他人やモノに当たることができない優しさゆえに、自分に当たってしまうのです。
しかし、自分の身体に傷を残す自傷行為は、ストレス発散の術として『賢い手段』とは言えないでしょう。
リストカットをやめたい人へ

まずはリストカットした後に、自分を責めるのをやめるべき
そして、いきなりリストカットをやめなくていいから、少しずつ他の方法を探す
信頼できる人、親でも友人でもいいから、心配事を他人に話すようにする
そして、病院・クリニックへ行くこと
私はクリニックへ行くようになって少しずつ改善していきました
(Tさん)
Tさんの話を整理しましょう。
抑えるべきことは以下の3点です。
・リストカットに罪悪感を持たない
・リストカット以外の依存先(ストレス発散法)を探す
・他人に対して悩みごとを話す
罪悪感は新たなストレスの種になり、リストカットの数を増やす要因になります。
決して自分を責めないでください。
また、自分で抱え込まないようにしましょう。
信頼できる人に話すのも良いですし、病院・クリニックに通うのも一つの手です。
他人を頼ることを覚えれば、徐々に改善の兆しが見えてくるはずです。
大事なことは、今の自分を否定せずに他人に頼ることを覚えることです。
周りの人間が気をつけること

リストカットについては否定も肯定もしないでほしい
そして、困ったときには何に悩んでいるかを聞いてほしい
無理に聞き出さず、吐き出したくなるのを根気強く待ってほしい
(Tさん)
リストカットに悩む人が一番やめてほしいことが、リストカットを否定されることです。
「変わらないといけない」と一番強く思っているのは本人ですから。
だからといって、肯定されるものじゃないことも分かっているため、リストカット自体に「Yes/No」の答えを出すのはやめておきましょう。
リストカットを肯定/否定せず、困ったときにただ話を聞いてくれることが、本人にとって一番の救いだと思います。
【まとめ】自傷行為への理解が大事

経験のない人にとって、自傷行為と言うのは理解しがたいものだと思います。
しかし、リスカーの人たちにとって一番つらいのは『理解できない対象』として見られることです。
リストカットは自分を傷つけるという性質で誤解されがちですが、
当人にとって一番の最善策がリストカットだっただけです。
「悪いことをしている訳じゃない」と、理解することが一番大切です。
それでは、アルフレッド・アドラーの言葉を引用して、この記事を締めくくらせていただきます。
『行動に問題があるとしても、その背後にある動機や目的は必ずや「善」である』
アルフレッド・アドラー
最後に、今回ご協力いただいたTさんに謹んで御礼申し上げます。
ありがとうございました。
(参考)
リストカットを繰り返す高校生への対応―養護教諭の立場から― – 出水典子(奈良女子大学大学院)
自傷行為治療ガイド – B.W.ウォルシュ(著), 松本俊彦(訳)
リストカッターの自殺 – 松本俊彦(著)